事実関係が一切ない、フィクションです。
信頼問題が課題
今日は、特別何かがあったわけでもないが普段の活動について日記を付けようと思う。
この商売は、俺だから買うという条件が非常に重要だ。
見ず知らずの怪しい人間からは、依存体質かよっぽどのバカしか買うわけがない。
または、その怪しい人間のセールス能力が高い場合もあるだろう。
しかし、俺にはそんなセールス能力はない。
幸い人を見る目は、人並みにあるようでどうにかなっているに過ぎないのだ。
そして、俺は、未来に高騰するものを日銭欲しさに売っている。
怪しさでいえばピカイチだ。
様々なコミュニティが存在する中で、都合が悪くなればそこから消えればいいと俺は思っている。
だから、拠点は常に動かして行動している。
本当は、ネットを使って活動をしたいのだが、そこまでの知識がないため、足が付きそうでやっていない。
だからこそ信頼を得るしかないのだ。
だが、この信頼こそが課題だ。
受け入れられなければお話にならない。
そうした思考から行き着いた先が、ボランティア活動への参加。
ボランティアでは信頼を得る以外にもたくさんのいいことがある。
俺は詐欺師じゃない。
俺の中では嘘は言っていない。
だから人を騙しているような行為は非常に心苦しい。
これを偽善で紛らわせることが出来る。
人から感謝されて気持ちいい。
お人好しが集まる。
本当に最高の場だ。
そして、今日は、炊き出しに参加した。
格好はシンプルに汚すぎない程度のジーンズにポロシャツ。
リーダーは恰幅の言いお世話大好きですと言わんばかりの顔をしたマダムだ。
「さぁ、若いの!たっぷりこき使ってあげるからしっかり働きなよ!」
と俺の背中を叩いたマダムは、自分が一番働いていた。
参加したはいいものの何をすればいいかわからないものに的確に指示を出していき、手慣れた包丁さばきで野菜を切っていく。
見事だと言わざるを得ない。
かくいう俺は主に運搬係だ。
本当は、調理係の方がいいのだが、男手が足りなさすぎるためしょうがない。
なんだかんだで、炊き出しは問題なく終わった。
「いやぁ、ごくろうさん!やっぱり男手があるとらくでいいわ!」
ごきげんな様子のマダムが近づいてきた。
「お役に立てたならよかったです。本音を言うならば運搬係よりも調理係の方がやりたかったんですけどね」
ここで自分が得意な方で楽が出来る方を主張することは忘れない。
ただ、この手のタイプは決めつけてかかることが多いので効果は無いだろう。
「カッカッカッ。あんた料理出来るのかい?じゃあ今度も参加してくれるなら、やらせてあげるよ。男手があったらの話だけどね」
マダムは満面の笑みでそう言ってきた。
「じゃあ、次は旦那さんを引っ張ってきてくださいよ」
「あの人はダメだよ。先週またぎっくりやっちまって使いもんになりゃしない」
「あぁ。それはお大事に」
なんて他愛のない会話を俺たちは行っていた。
「そういえばサク君は、なんの仕事をしてるんだい?」
この地区のボランティアに参加していて初めて聞かれた。
さぁ、仕事だ。
「僕は、いわゆる古物商ってやつですね。安く仕入れて高く売る、やることはそれだけです」
「俗に言う転売ヤーってやつかい?」
「僕は、薄利多売は好きじゃないし、本当に欲しいと思ってる人に売られないとか、ふざけんな!って感じですよね」
「あんたに何があったのさ・・・」
「欲しかった物が買えなかった。それだけですよ」
作り笑いを浮かべながら俺は答えた。
「そうなるといまいち何を売ってるのかわからないね。何を売っているんだい?」
「未来に確実に高く売れる商品ですよ」
「はぁ?」
「未来に確実に高値が付く商品を売っています」
「聞こえなかったんじゃないよ。呆れて言葉が出なかったのさ」
言葉の通り、心底呆れた様子のマダムだったが、どこか嬉しそうな顔でこちらを見ている。
「すごく真面目そうな雰囲気だったから、ちゃんと冗談とか言えるタイプでおばさん安心したよ」
「いえ、本気で言ってますよ。僕には未来が見えるんです」
「あんた、それ面白くないよ、真面目に言ってるならなお質が悪いね」
「まぁ、そうでしょうね。でも、事実ですから」
マダムは、困惑した表情を浮かべている。
「まったく、おばさん揶揄って遊ぶんじゃいないよ。ほら、もう今日は解散しな」
「えぇ、そうさせて頂きます。では、次の活動でお会いしましょう。お疲れさまでした」
「はいよ、お疲れさん」
こうして今日の活動は終了した。
種をまく。
俺の目的もやっと果たすことが出来た。
あとは手持ちにある間もなく評価が変わるものを売りつけ、噂を流させることが出来れば今回の仕事は終了だ。
俺は詐欺師じゃない。
決して人は騙していない。
事実を売っているんだ。
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