第11話 チートはチートでも、今すぐ強いチートじゃない

とりあえず、さらに人が少ない方へと移動した。
これから行う検証では一度、俺自身がゴブリンになる。
そこを通りがかった人間に襲われる展開が一番まずい。

「なぁ、相手の使った魔法からレベルを読み取るのって無理じゃないか?」
「普通はな。スキルは使い手に都合がいい結果を出すっつーアホな裏設定があるから気にすんな」
「マジかよ。偽装とかされてたらどうなんの?」
「ただ、除外されるだけだな」
「そんなんでいいのかよ…」
「神が遊び半分で作ったから仕方ねぇさ。それでエネルギー問題が解決してんだから、人間に文句言う奴はいねぇだろ」
「そうなんだけどさぁ」

なんかこう都合よく出来すぎてて心配になるな。
まぁ都合が良すぎたから能力者犯罪なんてものが増えたんだろうけど。
さて、気を取り直してやっていこう。
俺は、とにかくゴブリンメイジが撃つ魔法を見ることとそのゴブリンメイジを倒さずに変容で変身することだけを考えて動けばいい。
取り巻きで出てきたゴブリンは、先に倒す。

「来るぞ」
「わかった」

迷宮の様に入り組んでいるこのダンジョンでは、出会い頭の戦闘が多かったのもあり、今回に関してはカラレに周囲に人が居ないことを条件にモンスターの探知をやってもらった。

曲がり角から顔を出したのは、5体のグループ。
全員が武器を装備していて、剣が2体、槍が1体、弓が1体、杖が1体という構成だ。お目当てのメイジもしっかりと存在している。
来るとわかっていたので、先に近づいていたので、先頭を歩いていた槍持ちの首を鉄に変容させた手で貫く。
モヤとなって消えたところで剣持ち2体が一斉に襲いかかってくるが、鉄にした腕でしっかりと受け止めて、弾く。
体勢を崩したところを左の1体は首を狙って切りつけ、右の1体には胸を突き刺し後方から飛んできている矢の壁にする。
首を切った方は、浅かったらしく再び襲いかかってきたが、胸を突き刺した方のゴブリンを投げ捨て体勢を崩させたところで火の玉が飛んできた。

(認識ってくらった方がいいのかな?)

この辺りを聞いておけばよかったと思いつつ、火の玉に当たっておく。
当たった瞬間は少し熱かったが、このくらいなら慣れているのでどうという事はない。
これを見てチャンスだと思ったのか剣持ち2体はすかさず切りかかってきたが、さっきよりも遅くなっていたので、強引に殴り飛ばす。
このパンチで剣持ち2体はモヤとなり、残すは弓と杖。
不利な状況になってもモンスターは突っ込んでくる習性があるらしく退く気配はない。
矢が放たれ続けるが、鉄にした腕で弾きながら突っ込み、首を切り落とす。これで目的のメイジのみだ。

「カラレ!生きてさえいればどんな状態でもいいんだよな!?」
「問題ねぇぜ。スキルが保存出来たらゴブリンになった状態でも倒して構わねぇ」
「了解」

生きてさえいればいいなら、逃げられない様に足を折っておこう。
速くない間隔で火の玉が飛んでくるが無視して突っ込む。
手が届く距離まできたところで、杖を持っている方の腕を肘とは逆の方向に曲げる。
この瞬間ゴブリンは汚い叫び声を上げてのけ反って隙だらけのため、両足を180度回転させてから膝を逆方向に折り曲げたところで、カラレに止められた。
モンスターは意外と丈夫なので、このくらいやらないと逃げられると思ったが、結構ギリギリだったらしい。

「やりすぎだ。あのまま倒しちまうかと思ったぞ」
「ちゃんと加減はした」

カラレがジト目をしているが、見た目が少年で天使のため怖さはどこにも無かった。

「また、水とかこの腕みたいにイメージすればいいのかな?」
「そうだな。あとはこいつが使っていた火魔法も加える必要がある」
「わかった」

こんなことならさっきの戦闘で火魔法を保存しておけばよかった。
いまいち魔法を使うイメージが湧かない。

「ま、やってみるか」

どうせもうやらなきゃ始まらないんだし、という事で目の前のゴブリンを見ながらこいつになるとイメージする。
うまくいっているのか、体が淡い光に包まれ、視線が下がってく。ゴブリンの身長は140センチくらいだったから成功したと思った。
だが、目の前に居るゴブリンをイメージしたためか、俺の左腕と両足はへし折られた状態になってしまった。

「だから言っただろ?やりすぎだって」
「こうなることがわかってたのか?」
「最初はうまくいかないもんだ。どうせお前のことだから、馬鹿正直に目の前のゴブリンになるイメージでもしたんだろ」
「まぁ、そうなんだけどさ…」
「とりあえずスキルを保存しちまえ」
「わかった」

火魔法が自分のスキルとして認識できている状態なので、これを保存すると命じる。
すると体から何かがごっそり抜ける感覚があったあと、
(火魔法レベル1を保存しました)
という言葉が頭に浮かんだ。

「できたっぽい」
「ま、当然だわな」
「ごっそり何かが抜ける感覚がしたんだけど、あれが魔力?」
「そうだ。このくらいの魔法なら全然余裕だろ?」
「いや、今ので俺がなんで元に戻れていなかったのかの理由がわかった」
「抜かれてたんだろうな」
「そういうことだね。つくづくしてやられている気がするよ」

川北は俺が再起してしまわない様に魔力も抜いていたらしい。
俺は、常に少ない状態で過ごし魔力が必要なくらい痛めつけられていた時は意識が無かったため気づくことが出来なかった。

「なぁ、再起に魔力がいるのはわかるんだけど、適応はどうなんだ?この状態でも痛み感じてないけど、魔力使われてる気がしないんだけど」
「適応したことがあるものは記憶してんだろ。だから過去に克服したものには魔力を使う必要がねぇ」
「なるほど」
「だから気をつけろよ。突然腕を斬り落とされてもお前は気づけない可能性があるからな」
「いや、一瞬は感じるからそこは問題ない。それに腕がなくなったらさすがに気づくって」
「どうだか」

とりあえず魔力の感覚がわかったところで魔法を使ってみることにする。
俺は、ゴブリン目掛けて折れていない右腕を突き出す。
「ファイアーボール!」すると火の玉が飛んでいきゴブリンを燃やす。
少しの間、火が残ったあとゴブリンと共に消えていった。

「やったぞ!カラレ!」

飛び上がろうとしたが、ツキっとした痛みに足が折れていることを思い出す。
慌てて再起と変容を使って、元の姿へと戻る。
この時に保存は現状維持をするように命じることも忘れない。

「危なかった…」
「お前は、器用なのにバカだな」
「うるせぇ」

事実なのでこれ以上は何も言わない。
でも、これで魔法を手に入れることが出来た。

「それで、お前、燃えた服はどうするつもりだ?」

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