第10話 先立つものはいくらでも欲しい

翌日。
目を覚ましてから、即日発行された冒険者証を眺める。
これがあることでひとまずの存在証明が出来るようになった。
ちゃんと俺はこの世界に居る。この安心感は、なにものにも敵わない。

「おい、いつまで冒険者証眺めてるつもりだ。とっととダンジョン行くぞ」
「お前にはわからないかもしれないけど、嬉しくてしょうがないんだよ。これは自分が能力者であることと戦うことが出来る人間だっていう証明書なんだ。人助けしてる団体にも入りやすくなるんだよ」
「だからどうした。今おめぇに必要なのは金だ。先立つもんはいくらあったって困らねぇからな」
「とは言っても住むところはあるし、最悪ご飯だって食べなくていいんだから、そんなに焦らなくても…」
「こんな監視部屋みてぇなとこにいつまでも住んでられっかよ。しかも、あの筋肉だるまには俺が見えてるんだ。今の俺じゃあいつに勝てねぇから悪さの一つも出来やしねぇ」
「いや、悪さはするなよ」

カラレに急かされやってきたのは、白羽根ダンジョンだ。
というのも俺は今ここにしか入れない。
流石に死亡届の撤回には時間がかかるため、生体IDがちゃんと機能していない。
そこで、白羽根ダンジョン支局局長の四賀さんがここでしか使えない仮IDを発行してくれたのだ。

「なぁ、冒険者証があるのに、なんで生体IDが必要なんだ?」
「生体IDは、その人にしか存在しないものだからなりすましを防ぐためだね。冒険者証のみだった時代になりすましによる殺人があって以降はどっちも読み取るようになったとかだったと思う」
「じゃあ俺らもなりすましは難しそうだな」
「悪いことには使えないってこと」
「ケケケケ。胡散臭いことには使えそうだけどな」

ああ言えばこう言うカラレは放っておいて、ダンジョンへと入る。
ダンジョンで活躍する冒険者は、夢に見たことがあるくらいには憧れていた。
その時のことを思い出して胸が熱くなる。

「やっと始められるんだな」
「ここからは終わりはねぇぞ。俺が終わらせるまでわな」
「わかってるよ」
「ケケケケ。きっちり働けよ。手助けはしてやる」

たまたま来た白羽根ダンジョンであったが、ここは初心者御用達のダンジョンだったらしい。
上層では、初心者がソロでも切り抜けられるモンスターしか出てこないらしい。
ただし下層に行くにつれ急激にモンスターが強くなる特徴もあり、20層を越えた地点には、C級冒険者以上の人しか入れない様にと注意喚起がされているぐらいだ。

「んで、何層まで行くつもりだ?」
「今日は、行っても5層までかな。ビニール袋しかないし」
「そうか。お手並み拝見といこうじゃないか」


ここの1階層には、スライムが主に生息しており、時折ゴブリンがいる。
今は、スライムの粘液が付かない様に攻撃する武器がないため、スライムは少々面倒だ。
だから見かけたゴブリンを優先的に倒しながら、奥へと進む。
そうしてゴブリンがグループで現れる2階層、音によって平衡感覚を奪うハプコウモリが混ざる3階層を駆け抜けた。
一気に進んだのはドロップ品が魔石のみの確立が高い3階層までより、材料や武器が手に入る4階層までの方がいいという判断からだ。
4階層からは、今までの集団に魔法を使うゴブリンが加わる。
ただ、この階層も敵の硬さが変わらないので、特に問題はない。
そう思っていた時だった。

「リオンここいらで、保存を試すか」
「契約の時に使えるようになったやつか。急にどうして?」
「魔法を残せそうだからな。手段として持っておくには都合がいい」
「魔法が使えたら便利だとは思うけど、今の保存は1つだけなんだろう?ゴブリンメイジ程度の魔法一発あったって役には立たないんじゃないか?」
「ケケケケ。確かにそういう使い方もできるが、違うぞ。スキルを保存するんだよ」
「スキルを保存?」
「そうだ。使われたスキルを認識していれば、相手に変容したときそのスキルをそっくりそのままスキルレベルごと保存できるっていう仕組みよ」
「チート過ぎないか…」
「確かに強いがチートってほどじゃないな。保存したスキルは育たねぇし、表に出てこねぇスキルは認識できないこともあるからな。それと保存するまでの間に相手が死んだら保存することはできないから注意な」
「それでも、自分が持ってないスキルを使えるようになるんだったら十分すぎるよ」
「当たり前だ、元は天使のスキルだぞ。それから単発物はそのまま吐き出すだけだから魔力を使わないが、スキルの場合は通常使われる量の倍くらい魔力を使うことになるからな」
「わかった。スキルを入れ替えたい場合はどうすればいい?」
「単純に○○を破棄するって命じればいい。そうなる前にレベルを上げておきたいところだがな」
「レベル上げるなら破棄は繰り返すんじゃないのか?」
「保存したスキルを使い続けることでも上がるから無くしたくないスキルは取って置ける」
「なるほど。そうなると鑑定系のスキルが欲しいな」
「そういうこった。遠くから認識しちまえば戦う必要もねぇからな」

 

とにかく試してみようか。

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