こんにちは、ウルチです。
思いついてしまったので、別作品を書くことにしました!
第一話 適正属性無いのにどうするのよ
「お前の魔術師団入りが決まった」
「属性魔法使えないのに?」
突然やってきた兄貴からの言葉に心底驚いた。
属性魔法を扱うことが出来る魔術師のみが入ることを許された王国お抱えの集団だ。
「私も何かの間違いじゃないかと確認したが、カイルで間違いないらしい」
「王宮の連中が魔導師をねぇ」
魔術師は、詠唱によって魔法を使う事こそが至高という考えを持っているため、用意した触媒に魔法陣を描くことで使う事の出来る魔道を毛嫌いしている傾向がある。
そんなあいつらが使っている道具は魔導師が作っているというのに。
「それで、俺の工房はどうするのさ」
「特に触れられていないな」
「なにそれ」
「知らん。私はただ、サスネイル公爵からカイルに令状を渡せと言われただけだしな」
「誰だっけ?」
「お前なぁ。サスネイル公爵はうちの寄り親の寄り親に当たる家なんだから覚えとけよ」
「興味なかったからね。貴族の生活は俺には合わないと思ってたし」
「はぁ…。とりあえずお前には申し訳ないが、令状通りに一度魔術師団に行ってほしい」
「こんなことなら勘当されておけばよかったよ」
「それは母上が許さんだろうな」
「確かに…」
何を言っているかわからないと思うが、この工房は、「魔武具職人になりたいから家出てくわ!」と母さんに言ったら翌日に作られていた工房だ。
そして、こう言われたんだ。
「これは貸しよ。だから家を出ていけないわよね!」
ちゃんと意味が伝わらないとダメなんだと思い知ったエピソード。
これのせいで貴族位を放棄したいと言いだすタイミングを逃し、まぁいいかと過ごした結果逃げられなくなってしまった。
「それにお前には工房はいらんだろ」
「なんてこと言うのさ!」
「黙れ、インチキ魔武具職人が!ギフトで納品分を仕上げているのは知っているからな」
「おっと、旗色が悪くなった」
神からの授け者と言われているギフトは、10万人に1人という割合で突然与えられる。俺のギフトは、武具生成。
作り方を知っている武器や防具を魔力を使って生み出すことが出来る力を持っている。
「確かにギフトで作ったことはあるけど、それは緊急時の話だから」
「とりあえず私は騎士団に戻る。お前もちゃんと王宮に行くんだぞ」
「わかってるよ。いってらっしゃい」
お得意様に事情の説明を済ませ、王宮へとやってきた。
どうやら今日の門番は見知った顔の様だ。
「ちーす」
「カイル殿ではないですか!今日はどうしたんですか?」
「いやー呼び出しがかかっちゃってね。来たくもないのに来たんだよ」
「それはそれは。ついにカイル殿のマジックウェポンの凄さが気づかれましたか」
「残念ながら、これっぽっちも気づかれてないよ」
荷物検査が済んだので、重い足取りで魔術師団の庁舎へと向かった。
通されたのは師団長室。
入口近くにある応接室での対応になると思っていたので、驚きだ。
室内には、魔術師といえばこの格好と言わんばかりのローブを着た男とゴテゴテした装飾が付いた服を着た男が座っていた。
「よく来てくれたな。そこに掛けたまえ」
お誕生日席に座っている、装飾が多い男が下手側の席を勧めてくる。
上手側の席には魔術師がいる。
「失礼します」
勧められるままに席につく。
「時間が無いので、早速本題に入らせてもらうがいいかね?」
「どうせ拒否権は無いですから」
この装飾の多い男、国王じゃね?
背中から冷たい汗が流れているのを感じながら平静を装う。
「実は、第2王女のアリシアが魔力欠乏症となった。故に君を呼んだのだよ」
「魔力欠乏症…」
魔力欠乏症とは、蓄積されるはずの魔力が必要以上に体外へと流れ出てしまう病のことで、現在は治療法の見付かっていない不治の病とされている。
「まさか、俺に魔力タンク役をしろと?」
「流石に話が早いな。そういうことだ」
ローブを着た男が満足気に答えた。
そう、魔力欠乏症には延命措置が見付かっている。
それが、外部からの魔力供給だ。
「でも、魔力供給は粘膜からの摂取が一番効率的ですよね?流石に王女相手にやったら大問題じゃないですか?」
「だから、魔導師のお前に頼むんだよ」
「専門外ですけど」
「言い方を変えよう。馬鹿みたいに魔力があるのに適性属性無しの魔導師が必要なんだよ」
ローブの男が不満を込めた様子でそう告げた。
魔石への魔力供給の際に適性属性が無い方がロスが少ないという研究データが存在する。
魔導師であれば、触媒へ魔力を込めるのはお手の物だ。
こういった背景から俺が選ばれたのだろう。
「その研究って人を対象に行われてましたっけ?」
「間をすっ飛ばすな。行われてはいないが、やらなければアリシア様が死ぬ。そういうことだ」
「まぁ状況はわかりましけど、治療という名目なら魔術師団に入らなくてもいいのでは?」
「そうもいかないのだよ」
「娘は貴重な聖属性魔法の使い手でな。どうしても動いて貰わねばならん時がある。その際に、ただの職人を帯同させる訳にはいかないのは分かるな?」
「分かりたくは無いですが、これでも貴族家の端くれですので」
こういう貴族的な面子ってのは本当に嫌いだ。
これが王族ともなればさらに制約が多いのだろう。
「やることは分かりましたけど、俺が属性魔法を使えない問題はどうするんです?学園時代の同期には隠しようもないですよ」
魔術師団に入るには属性魔法の適性が無いとダメだったはずだ。
「そこは、王命ということで片づけられるから心配するな」
「一時的な加入という扱いにするから問題ない。それとは別に、魔法に見せかけることは出来るか?」
「それっぽいことは出来ますけど、騙せるのはせいぜい新兵クラスですね」
「今ここで出来るか?」
陛下がいる前で火とかはマズいだろうから、風魔法を使うことにする。
呪文はよく分からないので、魔法陣に描く内容を呟くことにし、武具生成を現界する一歩手前で止め、魔力の光に包まれている所から強引に発動へと持っていく。
魔力効率は非常に悪いが、何をやったのかを誤魔化して魔法が発動したように見せることが出来るのだ。
「ウォームブリーズ」
魔道具のドライヤーと呼ばれる道具に使われている魔術を使う。
室内には生温い風が吹き抜ける。
「こんな感じですね。ロスは大きいですけど、魔術とは気づかれにくいと思います」
「グリンド師団長どうだね?私には十分魔法に見えたが」
「正直驚きました。魔法としての工程がだいぶ違いますが、ギフトを絡めた別体系の魔法とすれば、ほとんどの者を騙せるかと思います」
「では、入団の理由は今までの系統から外れた魔法の研究ということで良いかな?」
「そうですね。退団させる理由は成果が出なかったためと出来ますので、問題ないかと思います」
余りにもこちらの都合を考えていないやり取りだが、文句を言っても無駄なので飲み込む。
その代わりに旨味を作る努力をしよう。
「それで、俺の職人としての時間が止まる訳ですが、何か補償の様な物は頂けるんですか?」
「お前の所からマジックウェポンを毎月一定数買うよう手配しよう。騎士団で有効に使わせて貰う」
「ありがとうございます!後ほど書面に認めて頂けると助かります」
「良かろう」
こうして属性魔法が使えない俺の魔術師団生活が始まることになった。
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