「ケケケケ、じゃあ流体になれ」
「は?」
「俺のスキルが使えるから水になれ」
「どういうこと?そんな説明じゃわからないよ」
「察しが悪いなぁ。お前は俺になったんだ、スキルが使えたって不思議じゃないだろ?」
「そうなんだ。どうやればいいんだ?」
「とりあえず、海があるからそれ見て水になりたいと思えばどうにかなるぞ」
なんで急に水になれと言われたのか分からなかったが、言われるままにやってみることにした。
崖の下に見える海を見て水になりたいと思い続ける。
すると足に力が入らなくなっていき、立っていることが出来なくなった。
「余計なことは考えるなよ。変化しきらなくて面倒なことになるぞ」
「わ、わかった」
そういうことは先に言っておいてほしい。
面倒なことになるのは嫌なので、必死に水になれと念じ続けた。
どんどん視線が下がっていき、変化が終わると地面が目の前にあった。
「おい、カラレ。これ平気なのか?」
「バッチリピッチリオールオッケーだ」
そういったカラレは俺に近づいてきて手を差し込んできた。
(差し込んできた!?)
「カラレ!?何やってるんだよ!?」
「あ?GPSあるかもって話しただろ。それ取ってるんだよ」
「本当にあったんだ…」
「簡単に逃がしたのもお前がアホだから問題ないと思ったんだろうな」
「アホじゃない」
「考えることを奪われてるんだから同じさ」
「……」
カラレの言っていることに妙に納得してしまった。
考えることを放棄したつもりはなかったけど、ここまで自分で考えたことはなかったかもしれない。
そう思うと情けなくなった。
「そういえばなんで水になったのに普通に話が出来てるんだ?」
「不便だからな。スキルではそういう仕様になるように作ってあるんだ」
「そういうものなのか」
「気にするな。使えてラッキーぐらいに思ってろ」
「わかった」
「んじゃあ、元に戻れ」
「どうすればいいんだ?」
「今度は、お前の再起を使えばいい」
いままで自分の能力を意識して使ったことはなかったが、言われた通りすれば簡単に戻ることが出来たところで疑問が生まれる。
「もし、俺みたいに再起が無い場合どうやって戻るんだ?」
「保存で戻るだけだ。ただ保存は今の状態だと1つしか対象を選べないから、戻るのに使うともったいないぞ」
「はぁ。保存はなんでも記憶しておけるってこと?」
「条件はあるがな」
「条件?」
「スキルを見ていることとか変容でコピーした対象とかだな」
「意外と簡単に出来るんだ」
「魔力使うからしばらくは弱っちいスキルしか保存しておけないがな」
「そっか」
でも、魔力さえあれば問題ないとか強いな。
「流しちゃってたけど俺にも魔力ってあるのか?」
「おめぇの適応再起も魔力を使ってるのに何言ってんだ?」
「これは俺の生命エネルギーを使ってるんじゃないのか?」
「んなもん使ったら、すぐ寿命無くなるだろ」
「え?」
「スキルは人には過ぎた力だし、遊び半分で埋め込んでるから無茶な使い方したら簡単にくたばるぞ」
「ちょっと待ってくれ。さっきからスキルって言うけど、能力とどう違うんだ?」
「呼ばれ方が違うだけで何も変わらない。人間が勝手に能力って言い始めただけだ。それなのにダンジョンのスキル書はスキル呼びなの不思議だよな」
なんかよく分からかったけど変わらないらしい。
これからは俺もスキルと呼ぶことにしよう。
「これからどうしていけばいいんだ?」
「俺が知るか。リオンの好きにすればいいさ」
「お前はそれでいいの?」
「サボれるんだからいいんだよ。おらとっとと行動を起こせ、暇だろうが」
「ごめん。どうしたらいいか分からない…」
「ちったぁ自分で考えろ。まずは捕まらないように別の土地行くとか記憶喪失の振りして助けられるとかダンジョンで日銭稼ぐとかいろいろあんだろ」
「そっか。じゃあ遠くいく」
「そうしろ」
「俺が全力で走ると結構速いけどついてこれる?」
「ケケケケ。すでに憑いてるから問題ないぞ」
「問題ないならよかった」
「ケケ。通じてねぇ」
カラレがつまらなそうな顔をしていたが、よく分からなかったのでスルーしておいた。
「そういえば、さっき、今は1つしか保存できないって言ってたけど、どうやったら増えるんだ?」
「使ってりゃそのうち増える。熟練度とでも思ってりゃいい」
「なるほど」
「スキルを対象にした方がよく育つからってのだけ覚えとけ」
「わかった」
「ちなみに最終的には制限がなくなるはずだが、能力の詳細は確認できねぇからよく分からないスキルを保存するのはやめとけ」
「使ったスキルはどうなるの?」
「こっちで消さなきゃまた使える」
「チートじゃん」
「俺のスキルだぞ?チートに決まってんだろ」
「さすが悪魔ってことか」
「天使のスキルだけどな」
「ややこしい・・・」
こうして、カラレのスキルについて聞きつつ、俺の能力についても説明しながら当てもなく遠くへ遠くへと走って移動した。
ここから、俺の止まった時間が動き出すのだという昂る気持ちと共に。
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