自称悪魔は、俺を食いに来たと言った。
きっとここに絶望を感じた人間を食って楽にしてくれる優しい存在なのかもしれない。
「そういうことなら俺を食って楽にしてくれ。頼むよ」
「あ?やだよ。人間まずいもん」
「いや、食うって言っただろ」
「食うっての比喩に決まってんだろ。実際に食うのは感情。お前自身じゃない」
「食ってくれないのか…」
結局は自分で死ぬしかなさそうだ。
「だったら感情を食べていいからそれが済んだら一人にしてくれ」
「なんだ?マジで自殺志願者か!面白そうだからここに居るわ!」
「面白いことなんて何もないからとっと消えろよ」
「ケケケケ。何が面白いかは俺が決めることだ。お前には関係ないさ」
こいつが何を言っているのか理解できなかったが、居座るつもりらしい。
「居座るつもりなら、少し話を聞いてくれ。本当は死ぬつもりがあってここに来たわけじゃないんだよ」
「対価ってことにして聞いてやるよ」
そうして俺はこれまでのことを話した。
心がすり減っていて誰かに話を聞いてほしかったのだ。
「はーん。なるほどなぁ。でもお前このままだとまたその施設に戻されそうだけどな」
「なんでそう思うんだよ」
「だってスキルが生存においてチート過ぎる。よっぽどのことがないと生き延びるだろうよ」
「逃げ切れるかもしれないだろ」
「無理だな。バスも電車も使えない、ましてや生体ID?ってのがなくて金稼ぎも出来ねぇんじゃいずれ捕まるよ。それにGPSとか埋められてそうじゃん」
ハッとした。
俺は川北の実験で色々と切り刻まれている。
その可能性は十分にあり得るだろう。
「いやぁ、だがお前は使えそうだな。俺と契約してみないか?」
「この話を聞いてなんでそういう話になるんだ。俺はもう誰かに利用されるのはイヤなんだが」
「まぁ、そうなるわな」
自称悪魔はウンウンと楽しそうに頷いている。
「では、俺からも身の上話をしようじゃないか。興味あるだろ?」
「興味はないけど、聞くしかないだろ」
「ケッケケケ。実は俺、悪魔じゃないんだ」
「お前ふざけてるのか?」
「大真面目さ。でも、悪魔なのさ」
この自称悪魔が言うにはこんな話だった。
元々は天使として生まれた。
だが、不真面目な性格で仕事をサボりまくっていた。
そうして過ごす内に、創造神が人間界をファンタジー世界にすると言い出したそうだ。
そこでこの自称悪魔は、スキル(俺たちが能力と呼んでいる力)を管轄することなった。
そこで、自分用のスキルを作り上げサボることにしたらしい。
「んで、変質と保存ってスキルを作った俺は創造神になることにしたんだ。そうすれば上の奴らも黙るだろ?」
「それバレたらやばいだろ」
「ケケケケ。そうヤバいんだ。だが、仕事サボれるし面白いからやり続けた」
「それでそのあとどうなったんだ?」
「50年くらいバレなかったぞ」
「ご…お前がすごいのか他の人たちが間抜けなのかよく分かんないな」
「そこは、俺が優秀ってことにしとけよ」
そうしてなんやかんやあって天使の状態のまま冥界落ち。
(なんやかんやって何があったんだよ…)
「冥界に落とされてから、悪魔をやってみようと思ったんだが、悪魔は絶望とか負のエネルギーを糧に生きてるんだが、天使のまま追いやられた俺じゃこいつはゲテモノ料理でな。しかもクソ不味い部類のやつ。耐えられなかったから冥王になることにしたんだ。天界に居た時からこいつの悪評は有名だったからな」
「それで?」
「不在にしがちなのを利用して城下町で冥王として人助けして正のエネルギーを食ってたんだが、6年くらいでバレた!」
なんでこいつはこんなに楽しそうに話すのだろうか。
「いやぁ、思ってたよりも早く捕まってびっくりだったぜ!しかも、嵌められて本人に捕まったんだよ」
「そういうのって罰とかどうなるの?」
「冥王の取り巻きは、不敬だーって叫び散らしてたぞ」
「怒られたってことか」
「まぁそんなとこだ。で、なんやかんやで許された。ただ、すぐ解放したんじゃ周りに示しがつかないってことで人間界で負のエネルギーを集めるって任務を与えられて今に至るってやつだな」
これだけやらかしてて、なんで無事なんだ。
「じゃあ、俺が人間界での協力者になってほしいってこと?」
「協力者ってのはそうだが、お前の想像してそうなことはやらないぞ」
「負の感情を集めるんだろ?」
「それも集めるが、俺は正のエネルギーでしか成長できないからな。それに普通に働かされたってつまらないだろ?」
「でも、罰なんでしょ?」
「退屈は敵だ。それに天使は寿命が長いからな。ストレス無しで生きることにしてるんだ」
「それの何が楽しいっていうんだよ」
「お前のモルモット生活よりはマシさ」
「うるさい!俺だって好きでそんな生活してわけじゃない!ただ、人のためになることがしたいだけだったんだ!」
お気楽な調子で言われた正論が頭にきて叫んでしまった。
「おいおい、図星だからって怒るんじゃねぇよ、ケケケケ」
この悪魔はさらに楽しそうに笑っている。
「お前のその甘っちょろい偽善を叶えてやろうって話をするんだからな」
「なんだと?」
「天界と冥界にいたずらをしたくなってな。負のエネルギーを天界に、正のエネルギーを冥界に送り付けることにしたんだが、働きたくないから代わりにやってくれ」
「ごめん。どういうこと?」
「負のエネルギーを天界に、正のエネルギーを冥界に送り付けることにしたんだが、働きたくないから代わりにやってくれ」
「聞き取れなかったんじゃないよ。意味が分からなかったんだよ」
「正と負のエネルギーはそれぞれの世界では嫌われてるもんだから、腹いせに遊ぼうって話さ。それにはお前がやりたいっていう人のために生きたいって気持ちが使えると思った。助けるってことは絶望があって希望になるからちょうどいいんだよ」
「それバレたら今度こそヤバいんじゃないの?」
「もうどっちの世界にも行けないから、存在を消されるだろうな」
「お前は、それでいいのかよ」
「好きにやって死ぬんなら別に構わないさ。これは俺が楽しんだ結果だからな」
この考え方が全く理解できなかった。
ただの腹いせで殺されるとか意味が分からない。
「もしお前が消されたら俺はどうなる?」
「死にたいんだろ?一緒に消えようぜ!」
「なんで楽しそうなんだよ。でも、これからどうしていいか分からなかったし、それもいいかもな」
「よし!契約成立だ!儀式すっぞ!」
空中に幾何学模様の魔法陣が出現した時だった。
なにやらバツが悪そうな表情でこちらを見てきた。
「すまん。お前の名前を教えてくれ。んで、俺、名前無かったわ」
「久崎リオンだよ。名前無いって今までどうしてたんだよ」
「役職とかそんなしかないんだよ。困らないからな」
自称悪魔は腕組みして考え始めた。
「よし!おいリオン!俺の名前は「カラレ」だ!よろしくな!」
「あぁ、よろしく。ちなみになんでカラレなんだ?」
「俺のなんにでもなれる能力から保護色ってことで色から連想してみた!カラーとレインボーの組み合わせさ!かっこいいだろ!」
凄くダサい…
だが、本人が気に入ってるみたいだから黙っておくことにした。
「じゃあ、これからは俺がお前で、お前が俺だ!これはそういう契約だってことを忘れるなよ」
「わかった」
「悪魔小学生な俺と精神年齢小学生なお前でちょうどいいかもな!」
こうして俺は、天使なのに悪魔なカラレと契約したのだった。
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