両親を亡くしたデパートのテロから1年が経ったころ、能力に覚醒した。
ただ、突然火を出せるようになったりしたわけではない。
10歳になると一度能力検査を受ける決まりがあり、そこで判明したものだった。
そして、これが俺の地獄が始まった瞬間でもある。
この頃の俺は、子宝に恵まれなかった叔母夫婦に引き取られて生活していた。
「リオン君、朝からそんなに緊張してたら1日持たないわよ?」
「しょうがないじゃん!今日の結果次第で夢が叶うか決まるんだから!」
「そんなにガチガチにならなくたって結果は変わらないわよ。自分の事を信じてやりなさいな」
「俺だって大丈夫だって思ってるよ。でも、もしかしたらって考えたら、やっぱり不安になっちゃってさ」
そう言う俺に叔母は近づいてきて、そっと抱きしめてくれた。
「あんなことがあって、それでも人の為にって、私達が心配になっちゃうくらい、前を向いて頑張ってきたんだから、きっと良い結果になるわよ」
「絵麻さん…」
「もし、残念な結果だったら、いっーぱい可愛がってあげる!」
「はぁ、それは遠慮するよ」
俺は叔母の抱擁から抜け出し、自分の緊張が薄れている事に気付いた。
「絵麻さん、ありがとう。人の為に出来る事は能力だけじゃないってこと忘れてた。もし、無能力者だったとしても今までみたいにたくさんボランティアに参加していく!」
そうだ、今までだって自分なりに出来る事を探してやってきたんだ。
そこに能力は関係ない。
怯える必要はどこにもなかった。
「リオン君は本当に立派ねぇ」
そう言いながら叔母は俺の頭を撫でた。
「よし!それじゃあ行ってきます!」
「はい、いってらっしゃ~い」
これが、温かい記憶の最後。
意気込んでやってきたのは、ダンジョンに併設された役所。
今回の検査を受けるのは、俺と同級生達のみらしく、ほかの児童は見当たらない。
周りの皆は緊張感もなく、おしゃべりしている。
そうこうして、いよいよ俺の番がやってきた。
子供は能力があると知られると悪い大人に利用されると教えられてきた通りに、検査の部屋は個室となっていた。
(ヤバイ、また緊張してきた)
自分に能力があるのか分かると思うと酷く緊張した。
何度か深呼吸を繰り返してから、中へと入る。
そこには、白衣を着た女性が居た。
なんというか、ものすごい美人なのだが、外見に頓着しないタイプなのか髪の毛はボサボサだし、ダボッとした服を着ているせいでデカイ胸が見えそうだ。
いや、なんでこんな人が担当なんだよ。ちゃんと仕事してくれるんだろうか…。
「いつまでもそこに突っ立ってないで早く来てくれるかしら?」
「は、はい!」
思わず立ち止まってしまった足を慌てて動かす。
「私は早く自分の研究に戻りたいの。時間は有限。分かったらそこの機械に手を乗せなさい。それで終わりだから」
なんだ、こいつとは思ったが、その通りなので大人しく言う通りにする。
機械には、ソフトボール台の水晶が中央に付いていて、こちら側は手を入れる為の穴が空いている。反対側には、レシートが出るみたいな感じになっている。
もう一度深呼吸をしてから機械に手を入れる。
一瞬ピリッとした刺激があったあと反対側の所から紙が出てきた。
「まぁ、まぁ、まぁ!!!」
突然、担当のお姉さんが興奮し始めた。
「ど、どうしたんですか!俺に能力はあったんですか!?」
お姉さんに肩を強く掴まれた。
目が血走っていて少し怖い。
「どうでもいい仕事だと思ってたけど、来て良かったわ!あなた最高よ!」
「能力があったんですね!」
「えぇ。あるわ。でもこの能力はとても危険なモノ。私から話しておくから、向こうに合流しないで奥で待ってなさい」
「き、危険なんですか!どんな能力なんですか!」
「理解してしまうと使ってしまうかもしれないわ。あとで説明してあげるからちゃんと待ってるのよ?」
なんですぐに教えてくれないのだろう。
ボランティアに参加してた人たちで能力があった人もすぐに教えてもらって帰されたと聞く。
危険だからとも言ってたので、専門家が言うならと信じる事にしてそのまま奥の部屋へと入った。
するとお姉さんが続いて部屋に入って来た。
「あれ?検査はいいんですか?」
「私の時間は終わりよ。それよりも素敵な人に会ったんだもの」
さっきまで見せていた気だるげな雰囲気が消え失せ、今は楽しそうな笑顔をしている。
「私は、川北涼子。研究者よ。あなたの名前を聞かせて」
「俺は久崎リオンです」
「そう、それではリオン。しばらくおやすみなさい。私のかわいい子猫ちゃん」
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